イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――ジャン=フィリップ・トゥーサン

ジョン・ルヴォフ監督のモノクロ仏映画『浴室』(1988)を見たことがあります。まるでイータロ・カルヴィーノの小説『木のぼり男爵』のようにバスタブに住みついた青年が、Chi non risica, non rosica とばかりに、突如浴槽から出、ヴェネツィアに行く不思議な映画でした。

この『浴槽』には原作があり、それはフランスの現代作家ジャン=フィリップ・トゥーサン(1957.11.29ブリュッセル~ )のデビュー作『浴室』で、彼の作品はその他にも集英社から『ムッシュー』『カメラ』『ためらい』等が翻訳出版されています。
ジャン=フィリップ・トゥーサン『浴室』 [ジャン=フィリップ・トゥーサン『浴室』(野崎歓訳、集英社文庫、1994年11月25日発行)] 「(51)教会は――サン・マルコ寺院だ――薄暗かった。両手をコートのポケットに突っ込んで、ゴンドラのようにそり返った大理石張りの床に沿って足を滑らせながら、しぶしぶエドモンドソンについていった。床のあちこちにモザイクが施されている。金塗りの宝物めがけてどんどん進むエドモンドソンを先に行かせて、彼女を待つあいだ、円柱に寄りかかって頭上のアーチを眺めていた。

戻ってくると彼女は(ぼくはベンチを見つめて坐って待っていた)、宝物殿を見にいこうと言ってぼくを立たせ、手を引っ張って身廊を進んだ。二人分の入場料を払ってから、電灯で照らされた狭い礼拝堂の中に入る時、ぼくは頭をかがめなければならなかった。四方の壁にはガラス張りの陳列棚が並び、武具や聖器類が展示されている。礼拝堂中央の、ガラス・ケースの中にも、その他の宝物が収められていた。

ぼくらは二人の老紳士の後について陳列物を眺めたが、紳士たちが、何か珍しいものがあるたびに、立ち止まってはそれを指差し合うので、ぼくらもその都度足を止めなければならない。彼らが身を完全に乗り出し、眼鏡を額に持ち上げて、中世の弓の前で動かなくなった時(まるで弓というものを初めて見たかのような様子だ)、ぼくは彼らの横をすり抜けて追い越すのに成功した。ひとめぐりしてから部屋を出、洗礼室の壁柱に寄りかかってエドモンドソンを待った。
……
(53)午後遅くになって、エドモンドソンが部屋に戻ってきた時に、ぼくは窓から外を見ていた。彼女はベッドに腰を下ろし、靴を脱いだ。身を乗り出すと、アカデミア美術館で、セバスチアーノ・デル・ピオンボの、とても暗い色の、うっとりするような絵を三枚見たわ、と言って、足をマッサージしながら、ぼくに、この画家をどう思うかと尋ねた。言葉で説明するのは難しい。

少し待ってから、彼女が質問を繰り返したので、正直言って、絵についてどうこう言うのはもううんざりなのだ、と答えた。エドモンドソンはそれ以上何も言わずに立ち上がった。服を脱ぐと、スーツケースを開けてスコートを探そうとした。もうテニスをやる気もなくなったよ、とぼくが付け加える。

エドモンドソンは仕方なくまた服を着ると、つまんない人ね、と言った(第一、ショートパンツがないんだよ、とぼく)。」
  ――『浴室』《直角三角形の斜辺》篇(野崎歓訳、集英社文庫、1994年11月25日発行)より
  1. 2010/06/12(土) 00:01:21|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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