イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

伝説「マステッリ・デル・カンメッロ館と4人のムーア人」(2)

(続き)
「……当時のヴェネツィアではアントーニオ・リオーバとその兄弟に謀られたペテンの事を語れる家族が何百といた。確かに有能な商人だったが、利益のためには良心の呵責というものはなかった。
ヴェネツィアの神話と伝説ある夜彼らの家の玄関口で、清楚な身なりの優しそうな夫人が戸を叩いた。確かに特別裕福そうではなかったが、彼の小間物屋で布地を買いたいと言った。主人は用向きを直ぐに理解し、夫人を店に連れていくと言った。≪私は可哀想な寡婦で小さな子供を抱えています≫と女が言った。≪夫は数ヶ月前死にました。私は稼いで子供を養うために、店をもう一度開かないと駄目なんです。トーニさん(アントーニオ)、私はあまり自由になるお金がありません。でも買わせて下さい。そうして頂ければ有り難いです。毎日お祈りをしながらあなたの事を思い出します≫。


レヴァントの狡猾な商人は一瞬の内に決めていた。寡婦の店は自分の物になる! リオーバは答えた。≪ご夫人、あなたの境遇はよく分かります。あなたの物入りに付け込むつもりなど毛頭ありませんから。あなたの力になれますよう、このフランドルの素晴らしい、高価な布地を捨値で提供致しましょう≫。

女はリオーバの言葉をうっとりと聞きながら、事実は全くありふれた粗悪品の、プリントの木綿地の巻物を注意深く見詰めた。≪ご覧下さい。この店に入ったご婦人方皆、ドゥカート金貨や銀貨をちらつかせてその布地を奪い合いますよ。そりゃ、確かですとも。一瞬の内に売切れになりますよ。うまい商売です≫と付け加えた。

彼は腹黒い調子のいい話を大いに強調するために、≪我らが父、主は、私が嘘を言っており、私の考えと一致しないとなれば、私を石に変えてしまうでしょう。兄弟よ、さあ、お前らも誓うがいい。このご夫人が、我々が誠実であることを納得して下さるように≫。そして弟達も同じように誓った。

≪分かりましたわ≫。女が言った。≪この布地、頂きます。皆さん有り難うございます。神様に、あなた方を栄光と健康に導くあの誓約の証人になって下さるよう、お願いしますわ。あなた方の事、あなた方の優しさは決して忘れませんわ≫。

こう言って、小さな袋からお金を取り出し、店の大きなテーブルの上に置いた。金が落ちるとチリリンと寂しそうな音をたてた。アントーニオ・リオーバが手を伸ばして、摑もうとして触るや、それは石に変わってしまい、手も腕も、更に全身が石に化けてしまった。同時に兄弟も恐怖の余り身動きならず、彼らも石化してしまったのである。

≪あなた方には当然の報いよ。あなた方の今まではインチキと不正直そのもの。今日だって貧しい女の前で、騙すのはヘッチャラだったわ≫。実はこの女はマグダラのマリアだった。神が、彼らに当然のその神聖な罰を厳しく下す前に救ってやろうと、極端な事をやったのだった。

この時から兄弟の像は、彼らの所有する館の外の壁面に据えられることになった。商売で不正をすれば、いかに不幸をもたらすかという記憶を永遠に残すために。」
 ――『Miti e leggende di Venezia(ヴェネツィアの神話と伝説)』(Marcello Brusegan著、Newton Compton editori、2007.10)より

追記=2010.07.31日。ヴェネツィア・ニュースを見ると、リオーバの頭部はようやく本来の住処に帰ることが出来たようです。《Sior Rioba torna a casa!》(10月初め、お披露目の式があったそうです)
  1. 2010/07/24(土) 00:03:24|
  2. ヴェネツィアの伝説
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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