イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――ヴェローニカ・フランコ(3)

ローマという教皇猊下のお膝元では、反宗教改革の厳格主義に燃えるピウス5世(天正の四少年遣欧使節が拝謁したグレゴリウス13世の前の教皇)などは都市浄化に燃え、娼婦達を都市外に追放し、これといった産業のないローマの経済は、経済力のある娼婦達の退却で混乱を極めたと言います。
ヴェローニカ・フランコの肖像[コッレール美術館のヴェローニカ・フランコの肖像] 一方ヴェネツィアでは、フランスの地中海学者フェルナン・ブローデルがその著『都市ヴェネツィア――歴史紀行』(岩崎力訳、岩波書店、1986.8.11発行)の中で、
「16世紀、17世紀を通じて全ヨーロッパにあまねく評判の行き渡っていたヴェネツィアの遊女たちは、豪華な衣装に身を包んだ絶世の美女揃いであり、黄金と真珠で飾り立て、利発で才気に満ち、いわばサロンの女主人であって、貴族や才人たちを客として迎えていた。」のですが、
ブローデル著『都市ヴェネツィア』とは言っても、奥方達をエスコートするのに夫や愛人でもないチチズベーオ(cicisbeo)が常に貴婦人に付き添ったヴェネツィアが、ロンドンやパリに比して、より頽廃していたとは言えないと書いています。マリン・サヌードの日誌が記しているそうですが、その娼婦達が外国人からせしめて銀行に預け、地元の経済を潤したため、「1514年に造船所の重要な工事のために娼婦に多額の臨時税が課された」(『ルネサンスの高級娼婦』)ようなことがあったり、ローマのように娼婦を排除しなかったようです。

「ヴェネツィアでは、ローマと比べると平和で落着きのある、娼婦にとってはさながらオアシスのような都市であった。一つにはこの水の都がイタリア半島の辺境に位置するという地理的条件のためもあったが、それ以上にヴェネツィアが、折から鬨(とき)の声を上げていた反宗教改革の厳格主義を緩和するだけの独立精神を、辛うじてとはいえ保っていたためであった。

たとえば異端審問の法廷においても、元老院から任命されたヴェネツィアの審問官たちは、ローマ教会から派遣されてきた代表が厳しい判定を下すのを抑制するように気を配り、それを助長しようとは決してしなかった。ローマに厳格主義が浸透していたまさに同じ時代に、ヴェネツィアには自由な雰囲気が横溢していたのである。
……
ヴェネツィア共和国では、娼婦は風俗がいっそうゆゆしく乱れるのを阻止するごく小さな必要悪と見なされており、このため彼女たちはよそに比べて寛大な扱いを受けることになったのである。ヴェネツィア当局は、売春そのものよりも、むしろ娼婦たちを取り巻く者と、彼らの許し難い行動の方に目を光らせていた。

事実、15世紀の終りには娼婦の稼ぎで生活する女衒、仲介者、保護者など、ミラノ外交官が残した1492年の文書によれば下層階級の出とされる人びとに矛先が向けられた。その文書には次のように書かれている。≪近頃出された女衒追放令により、司祭や僧侶は別にして111名の紳士がこの日までに町を離れた。彼らは商売女とわたりをつけ、彼女らを斡旋していたのである。≫」
 ――ポール・ラリヴァイユ『ルネサンスの高級娼婦』(森田義之・白崎容子・豊田雅子訳、平凡社、1993年8月25日発行)
  1. 2010/10/02(土) 00:05:42|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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