イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

ヴェネツィア料理: Castradina S'ciavona(カストラディーナ・スチャヴォーナ――去勢雄羊煮込み料理)

語学学校のヴェネツィア学院(Istituto Venezia)から、毎月のようにE-mailで、当校で学びメールアドレスを学校に残してきた世界の生徒達に、ヴェネツィアに関する色々の本からの抜粋やニュース等を伊語の解説付きで、イタリア語を忘れないようにとの意味を込めてでしょう、送ってくれます。ヴェネツィア好きには嬉しい限りです。

そんな中で珍しく、文字化けのないテキストがありましたので、訳してみました。Carla Coco 著『ヴェネツィアの料理 Venezia in cucina』からの抜粋で、題して『La Castradina S'ciavona(ラ・カストラディーナ・スチャヴォーナ――スラヴォニア地方の去勢羊肉の煮込み料理)』[サルーテ教会のお祭りの時に食べる]だそうです。
カストラディーナの料理[イタリアのカストラディーナのサイトから借用] 「アドリア海全域からやって来る人達が集まるスキアヴォーニ(スチャヴォーニ)海岸通り[マルコ・ポーロ家もそうした一家の一つだったでしょう]を考えてみよう。そこで trabacoli[伊語trabaccoli――2本マストの漁船]――典型的な小型貨物船――から船荷を陸揚げしたものである。彼らはスラヴォニア、即ちその国境が明確でないダルマツィア、ボスニア、アルバニアを含む地域からやって来た。沿岸航法による船足の速い船で、現代の運搬業者にも比せられる、いわゆる“旦那衆”はその時代大量の積荷を扱った。

共和国が決めた関税免除のお陰でスラヴォニア人達は大量の農産物を運んだので、ヴェネツィア人は少しずつではあったが、確実に味覚の変化を起こすことになる。ラグーナ(潟)の多くの料理は、“risi in cavroman(リージ・イン・カヴロマーン――賽子状に切った去勢羊肉と米のシチュー)”から“castra' in umido con patate(ジャガ芋入りの去勢羊肉の煮込み)”までダルマツィアの香りがし、バターと牛乳と共に脂をよく塗り込み焼き上げたオリエント風子羊肉にまで及んでいく。

全ての食品の中で現在でも残っている物の一つで、過去の歴史の中にその根源があり、ヴェネツィア人の宗教的シンボルとなっている物として、“castradina s'ciavona”がある。海の向こうの失われてしまった領土を呼び起こす料理として、所有していた領土というより、むしろそれは“もう一つのヴェネツィア”だったと考えられる。

アドリア海沿岸にあった、ヴェネツィア的であったものについて語る時、この長いお話は、遥か昔に引き戻してくれるかもしれない。息づかいがセレニッシマ共和国時代の領土と波長が同調してしまう。
……
とにかく我らが castradina に話題を戻そう。この料理は共和国が1631年、マドンナ・デッラ・サルーテ教会の祝日を決めた時以来、毎年11月21日に食されてきた。健康であるということをヴェネツィア人は真面目に考えた。ペストの終焉に際して、どんなに疲労困憊していようと、祈願のために神に捧げる寺院を建立することは責務だった。考えてもみて欲しい。太らすために去勢した若い雄羊の塩漬け・燻製・ 乾燥した肉をダルマツィアから運ばせることがもし問題であったなら、問題視するのも可笑しな事である。

実際検疫の期間を無事に乗り越えられるように、また普段の健康時の火急の場合にもそうであるように、当時知られた凝縮した良き保存法があった。
[ヴェネツィアでは、ペスト等の疫病が町に入り込まないように、共和国の領域の港では、外国航路から来る船は入港前の40日間(quarantena)は港外で待機させ、安全を確認するように定めていたそうです。ペストの恐ろしさは身に沁みていたのです。そのため quarantena という言葉は検疫の意味となり、quarantaine(仏語)、quarantine(英)、Quarantaene(独)等の形でヨーロッパに流布したようです。]

これは健康のために病を駆逐する厄除けの意味を込めた外国渡来の食品である。1928年刊の『ヴェネツィアの食堂(Osterie veneziane)』にエーリオ・ゾルズィの料理の記述がある。
《カストラディーナについては、共和国の最も古い記録の一つの中で語られている。1173年の総督バスティアーノ・ズィアーニの公定価格表の中にはカストラディーナという名前は入っていないが、ルーマニアやスラヴォニアの乾いた肉(sicce carnis de romania et sciavinia)について語っている。事実カストラディーナとは、先ず塩漬けし、次に燻製にして、天日で乾燥させ、最後にヴェネツィアの商館や船倉で熟成させた雄羊の肉を半分の長さに切った物である。》

このバルカン半島の典型的な食品が、ヴェネツィア人に大変お気に召して、宗教上の祝祭にどのようにして、また何時入り込んできたのか明言するのは至難である。しかし色々ヴァライエティに富んだレシピが伝わっている。その間にもダルマツィアの商人の船は到来していたのである。
……
チリメンキャベツとカストラディーナの料理は調理にとりわけ時間を要する。肉を丸一日水に漬けておき、その後賽の目に切り、オリーヴ・オイルを振り掛け(ラードは駄目)、火に掛ける。黒チリメンキャベツを入れ、ゆっくりと煮る。肉が固くならないように注意。
……
茹で肉のスープのような物で、バルカン半島風羊肉シチューである。この材料は塩、ジュニパー、ローズマリー、ローリエ、コリアンダー、玉葱、人参等を使った古い保存法で現在でもやっている。

肉はもうダルマツィアからではなく、Sauris(ヴェネツィア・フリウーリ・ジューリア州の西の州境)から到来する。生ハムに適したこの地の空気が若い雄羊の腿肉にも適している。ゾルズィの言を認めざるを得ない。ヴェネツィアにはレヴァントの国との絆はなくなってしまったが、カストラディーナはヴェネツィア共和国の伝統として最後に残る食品である。」
  ――ヴェネツィア学院、マッシモ先生からのメール便より
  1. 2012/08/18(土) 00:08:20|
  2. 食品
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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