イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

ジョゼフ・ターナー

サンタ・マリーア・フォルモーザ広場から北東に向かうロンガ・サンタ・マリーア・フォルモーザ(Longa S.Maria Formosa)通りを行くと、途中右にマスカロン(Al Mascaron)というオステリーア(オマール海老のスパゲッティが大変美味しい)があり、そこを通り越して次のカヴァーニス橋(P.Cavagnis)の手前左にちょっとしたコルテ(Corte)があります。

本屋さんらしいので入ってみますと知った顔の店主ルイージさんがいたので、以前サンタ・マリーア・ノーヴァ(S.Maria Nova)広場に店があったでしょうと言うと、近年こちらに越してきたのだと言います。サンタ・マリーア・ノーヴァ広場に店があった頃、ヴェネツィア関連の本を大変取り揃えていたのでよく立ち寄りました。ヘミングウェイの伊語版の『河を渡って木立の中へ(Di là dal fiume e tra gli alberi)』もここで購いました。
ルイージの本屋さん書店の中のルイージゴンドラ上の本[ 左、書店入口。中、書店の中のルイージさん。右、高潮時に備えてゴンドラに乗せられた古本達]  ある時声を掛けられ、付いてくるように言われて行くと、ノーヴァ広場の裏通りにこの店の倉庫があり、鍵を置いていくから好きなだけ見ていいよとフリーにして頂きました。結局本2冊を選んで鍵を返しに店に行ったのですが、信用出来るか出来ないか分からない外人に全く鷹揚な店主でした。こんな風に遇されたのは日本人というのは信頼出来るからだ、ということなのでしょうか。

ヴェネツィアの人達は人を信頼するとこうなるのでしょうか。ローマやミラーノではバールでワインやカッフェを頼むとその度にその場でコインをカウンターにピシャリト置きますが、ヴェネツィアでは例えばバーカロで飲食すれば最後に清算します。狭い島なのでいわば全島人が顔見知り、全てが信頼の上に成り立っているということなのでしょうか。観光客だらけのサン・マルコ広場近辺はミラーノやローマと同じで違う領域と思われます。知り合った仏人ベアは電気製品をアパートに届けてもらい、その場で支払いを済ませようとすると、後でと言われ、清算は1ヶ月以上後だった、パリではこんな事絶対にあり得ない、と言っていました。
『Venise』[『Venise――Aquarelles de Turner』(Préface: Andrew Wilton、Bibliothèque de l'Image、1995)]  この店で上掲のターナーの画集の仏語版を買いました。ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775.04.23ロンドン~1851.12.19チェルシー)の生涯については次のサイトジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーでどうぞ。この本の仏語訳の解説は次のように始まります。

「ジョゼフ・ターナーはその《近代性》において、彼の同時代の画家とは異なり、その枠外にいると考えられている。イギリス絵画が18世紀の《グランド・スタイル》と言われる技巧時代を経ることもなしに、19世紀中盤のリアリズムという細密さを強迫的なまでに追い求める時代に移っていくのに反して、ターナーは偏に独り、自分のヴィジョンを追究している。

この時点までの、光と色彩で思いもよらぬ表現をする世界を渉猟するに、彼はフランスの印象主義の先を行っているのである。太陽の光の中で、彼の光り輝く風景はフォルムが壊れていく。この画家は20世紀の抽象絵画さえ予知しており、より明確な形態の表現を拒絶するのに夢中である。

画家としてのコンセプションが肝要なのである。一つのイメージは近代主義者の理論と全く合致するものであるのだが、その理論とは全ての大芸術家が歴史を通じて関わっており、現代芸術に先行するものであった。

しかしこの場合実際は少々異なっている。ターナーの天才とは非常に素晴らしいものであり、我々が時にそれについて安易に考察するといった態の手法とは丸で違う。

彼は1775年に生まれた。25歳になるや早熟の青年として風景画家として恵まれた表現テクニックを身に付けた。18世紀の物自体を熟視する手法を身に付け、芸術として許される理論で、最大限にそれを絵画に取り込み始めた。……」
サン・マルコ図書館と総督宮殿 布告門 スキアヴォーニ海岸通り総督宮殿[左は1827年の作品。中左、1833年の布告門。右、1840年のスキアヴォーニ海岸通りと総督宮殿]
2本の柱のあるピアツェッタサルーテ教会を望む大運河サルーテ教会遠景ヴェネツィアの夜明け[1840年作品。左、2本の柱の立つピアッツェッタ、中左、サルーテ教会の見える大運河、中右、サルーテ教会遠景、右、ヴェネツィアの夜明け(フォルムは形を成さなくなっていき、色だけの世界に移行していくようです)。]  その他のターナーの絵画作品については次のサイトでどうぞ。Joseph Mallord William Turner
MJQ『No Sun in Venice』『サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む』左は、モダン・ジャズ・カルテットの『No Sun in Venice』のレコード・ジャケットに使われた絵です。まだTVのなかった時代、そしてまだアート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズが初来日するずっと前でモダン・ジャズという言葉が耳新しかった頃、NHK第2放送で油井正一さんの解説でこのMJQの『たそがれのベニス』を聴きました。仏人監督ロジェ・ヴァディムの映画『大運河(Sait-on jamais)』のサウンド・トラックになるということでした。数年後上京し、この映画を数回見(例えば映画ジェリー・マリガンの『私は死にたくない』、マイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベーター』の公開と同時代)、レコードを買いました。映画の中では、大運河をゴンドラの Cortège(葬式の船列)が進むシーンが私のモダン・ジャズの礎石になりました。YouTube でCortegeをどうぞ。

上右の絵はこの度の東京都美術館での、ニューヨークのメトロポリタン美術館展で展示されたターナーの『サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む』です。色の美しさに感動しました。最初ターナーは大運河の上手と下手からサルーテ教会の二つの絵を描いたと思いました。……両者の絵をつぶさに見て気付きました。50年ほど前発売された左のレコード・ジャケットのターナーの青かぶりした絵は色も違うので別の絵と思われそうですが、右の絵の左右逆版だということが分かったのです。私も半世紀も経って気付いたのでした。逆版をターナーの絵と言っていいのでしょうか。
2013年『ターナー展』予定チラシ『ターナー展』[来年もターナーのヴェネツィア絵画が来日するとか。]  ロジェ・ヴァディムの映画『大運河』(1959年公開)は、ヴェネツィア・ロッスィーニ映画館内で劇中の漫画映画上映シーンから始まり、漫画の終了で観客が外へ出るとロッスィーニ映画館前のテアートロ橋近辺の、かつての映画全盛期の賑いを映すという形で、映画が進行しました。その後映画が下火になり、この映画館が見捨てられ、長い間廃墟同然になっていました。映画館に変わる前のオペラ劇場時代については、サン・ベネデット劇場でどうぞ。

最近ヴェネツィア・ニュースを見ていますと(La Nuova)、市がこの映画館の再生を図り、この10月9日にオルソーニ市長らのテープ・カットで再利用が始動したのです。
新しいバーカロ旧ロッスィーニ劇場[2014.03.11日追記=新しく出来た左隣のオステリーアとスーパー“プント”。ここへのアクセスは、マニーン広場からサンタンジェロ広場に向かうコルテジーア通りを行き、一本目の右横丁へ曲がり、直ぐ突き当たりがプントの裏口です]  映画館の外観を傷付けずに、更に建物を保持出来るようにと、内部では基礎となる柱を地中に330本も打ち込み、その上に鉄筋コンクリートの建物を新しく建築するといった式で内部から外壁を保護し、1階はスーパーやレストラン等の商業的セクション、階上は多目的ホール、映画も見れる300人収容の1ホールと110人収容の2ホールが出来たのだそうです。次の機会にこの辺りを歩くのがまた楽しみになりそうです。
ターナー画『サン・ルーカ教会を望む』2013.12.17日追記=2013年の《ターナー展》で、左の絵が来日しました。『サン・ルカ運河よりサン・ルカ教会とグリマーニ宮の背面を望む』とありますが、ロッスィーニ劇場前にキャンバスを立てて、目前の劇場橋(P.del Teatro)を透して描かれたようです。
  1. 2012/11/17(土) 00:02:43|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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