イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

ヴェネツィアの海との結婚式(3)

(続き)
「……海との結婚の祝祭に関わる、ヴェネツィアでも知られた伝説がある。主人公はピエーロという若い漁師と彼が熱愛して止まないカステッロ区の乙女《ブラーゴラで最も美しい》と言われた若い美女イメルダである。彼にとっては若い乙女に近寄るのは容易いことではなかった。乙女は彼のことなど考えたこともなかったし、誰であろうと若い漁師になど目をやる時間もなかった。こうしてピエーロは彼女の気を引くためには何か特別の事が必要だと考えた。
Marcello Brusegan『ヴェネツィアの神話と伝説』少女の心を我が物にするためには、センサの日の海との結婚式のお祭りの時が最上ではないか? その日最も頑強壮健な若者達が海へ潜り、総督の投げた指輪の発見確保を張り合う。事実指輪は単に捨てられたのではない、有能な潜り手達により取り戻された。彼らは肺臓を破裂させそうにしながら、総督にそれを手渡す栄誉を得ようと潜った。総督は彼らを宮殿に招き、彼らの望みを聞いた。

何年もの間に、この回収イヴェントは沢山の参加者を呼ぶ、一種の競技と化していた。彼らは老漁師の号令で、屈強な若者の強烈な意欲で臨み、勝者への轟き渡る拍手喝采を期待して、海へ飛び込む。だからピエーロはセンサの日の競争に参加して、他の若者と海へ飛び込むことを決めた。

一度飛び込むと彼の競争者達は、一度は息継ぎのために水面に顔を出した。しかし誰も指輪を手にしていなかった。最終的にピエーロも浮上した。しかし総督の投げた宝石をしっかり拳に握っていたのだ。やった! 競争に勝ったのだ!

翌日ピエーロは総督宮殿に招かれ、指輪を総督に手渡した。そして総督は何か望みはないかと問うた。《晴朗この上なき閣下、一つお願いの儀がございます。イメルダという、とても美しい少女を愛しております。しかし私の事を知ろうともしないのです。お願いです、総督閣下の口から、説得してみて頂けないでしょうか》。総督答えて曰く、《ピエーロ君、難しいこと言うね、総督といえども乙女心を説き伏せるなんてことは出来ないよ。でも、その子に口を利いてみることは約束しよう》。

総督とイメルダとの話し合いの内容を予想するのはいとも簡単なように、それは全く無駄な事だった。乙女は決して説得されはしなかったし、可哀想な漁師との結婚など考えたくもなかった。

ピエーロは悄気ることもなく少女を愛し続け、海との結婚の祭日には毎年のように海に飛び込んだ。そして2、3度は指輪を握って浮上し、やはり自分の唯一の願い、美しいカステッロの少女(castellana)を説伏してくれるよう総督に頼むのだった。そして同じように総督もやってみようと言うのだが、結果は零だった。彼女は騾馬のように頑固で、若い漁師など興味対象外だった。

しかし彼女がそうであれば、ピエーロも負けずにそうだった。彼はまたまた奇跡的な回収劇を演じた。しかしこの最後の試みは狂気の沙汰だった。というのはその日強風が吹き荒び、1メートル以上の高波が荒れ狂った。水の底は視界零で指輪の回収など全く覚束無かった。一人ひとり競争者全員が状況は最悪だとし、一両日後、嵐が収まったら再開することに決めた。

しかしピエーロは違った、納得しなかったのである。彼には我が物にしたいイメルダの気持ちのことがあった。その時何百もの、度肝を抜かれた人々の緊張した注視の中、海の中へ飛び込んだ。海底まで潜り、探し始める。

海上の船からは何も見えない。こうして次第に時間が経過していくと居合わせた人々はソワソワし始め、十字を切り、祈り始めた。しかし波の間に腕が突き出され、何か握った拳が見えた。《ピエーロだ! やったピエーロ、流石は漁師! ピカ一だ! こんな嵐で指輪を掴んだ。凄いことだ!》ピエーロの顔は今や水面に浮かび、波に翻弄され、疲労困憊の色が激しかったが、嬉しそうだった。

沢山の手が彼を助けよう、船に引き上げようと差し伸べられた。しかし栄光に包まれようとした瞬間、今まで以上の逆浪が幾つかの船を引っ繰り返し、海中全てが阿鼻叫喚の中に投げ込まれた。投げ出された人々は皆、直ぐ様助け上げられたが、ピエーロは何処に? この逆浪の中では、仮令彼が死んだとしても遺体の発見は困難だった。

彼は更に荒海と格闘しようとするにはあまりにも衰弱し切っていた。こうしてその未知の届け場所に向かって飛び続ける伝書鳩のように、最終目的地に辿り着けると感じた、正にその時、ピエーロは飛翔し去ったのである、誰もその果ては知らない地へ。彼と共に指輪は失われてしまった。更に悪い事は、美しい愛に対する《夢》というものが砕け散ってしまったことである。 ……」 (続く) 
  1. 2013/05/11(土) 00:00:19|
  2. ヴェネツィアの行事
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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