イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――大島真寿美

2011.12.17日に文学に表れたヴェネツィア――ティツィアーノ・スカルパを書きました。スカルパの作品『スターバト・マーテル』(河出書房新社)は、ピエタ養育院の前任者が止め、新たにアントーニオ・ヴィヴァルディが教師として赴任して来ることで物語は佳境に入る設定になっていましたが、本作品『ピエタ』(ポプラ社)は、ヴィヴァルディの訃報がピエタ慈善院に届いたところから、ヴィヴァルディの教え子エミーリアの思い出の形で物語は始まります。
『ピエタ』「わたしたちは孤児よ、とアンナ・マリーアが微笑んだ。もしかしたら、運河に捨てられたかもしれない命よ。運河に捨てられていたら、わたしはヴァイオリンを弾けなかった。うつくしい音楽に出逢えなかった。わたしはどんな人に生んでもらったのか知らない。どんな人から生まれたのか知らない。だからわたしを生んだのは、そう、そして、わたしを育んだのは、ピエタの音楽なの。わたしはピエタの音楽から生まれたの。ピエタはいつも音楽でいっぱい。……」
……
「ほんとうに、ほんとに、わたしたちは幸せな捨て子だった。わたしたちが、どんなに幸せな捨て子だったのか、ヴィヴァルディ先生が、あの頃作ってくださった、わたしたちのための協奏曲を聴けば、きっと何百年先の人たちにだってわかってもらえることだろう。」
……
「《知ってる? そういう職業があるのよ。新聞にね、記事を書く人のこと。近頃、いろいろ出てるでしょう、新聞。》
《そんな人がどうしてここへ?》
《十人委員会に処分された貧乏貴族(バルナボッティ)について調べてるんですって。国家に楯突(たてつ)いたと糾問(きゅうもん)されて、どうやら秘密裏に消されてしまった男がいるらしいの。追放されたのか、幽閉されたのか。もしかしたら殺されたのかもしれないわね。そのことを調べて告発しようとしているみたい。

あの男たちの中には学生もいるわ。それから運動家も。他にはイギリスで自由主義の思想を学んできた、学者の端くれ。市民にわかりやすく、国家権力の横暴を解説するつもりなんでしょう。

ヴェネツィア市民はね、権力に縛り付けられているということがまるでわかっていないの。自分たちは自由に生活を謳歌していると思いこんでいる。そういう意味では、うまくできているのよ、この国は。楽しいことがいっぱい、美しいものがいっぱい。そこそこ楽しいなら、まあいいじゃないか。……》」
……
「最終日の街は大賑わいだった。
長い冬のカーニバルを楽しめるのもこの日まで、ということになると、人々は競い合うように街へ繰り出してくる。
広場ではこんなにたくさんの人がどこから現れたのだろうというくらい、仮面をつけた老若男女が、自由気ままに祭りを愉しんでいた。道化や、即席の楽隊、物売り、大道芸人。籠にはいった極彩色の鳥だの、紐(ひも)にくくられた猿だの、犬だの。笛吹きの少年。朗々と声を張り上げる吟遊詩人。

おかしな恰好。派手な衣装。面白い鬘(かつら)。奇抜な仮面。外国の言葉も聞こえてくる。狭い路地ではすれ違うのもやっと。けれどもすれ違う人、すれ違う人、みな、うきうきと心が弾んでいるのがわかる。」
ピエタ養育院[故ピエタ養育院] 「……沖から見るヴェネツィアは息を呑むほど美しかった。傾き始めた日の光が黄味を帯びて、ヴェネツィア全体が黄金に光って見える。サン・マルコ大聖堂やドージェ宮。つくつくと高い鐘楼があちらこちらの天に伸びて。道をそぞろ歩く、小さなたくさんの人影。それからピエタ。あれはピエタ。」
  ――大島真寿美『ピエタ』(ポプラ社、2011年2月18日)より 
  1. 2013/10/12(土) 00:05:29|
  2. ヴェネツィアに関する言葉・文学
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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