イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文芸評論に表れたヴェネツィア――鳥越輝昭(2)

ヴェネツィアで語学校に通うため借りた、アパート生活を始めた頃、ヴェネツィアの人に言われた事があります。ヴェネツィア人はヴァポレットにあまり乗らない、だからサン・マルコ広場からサンタ・ルチーア電車駅まで行くとすれば歩くのだ、と。

その道順は: S.Marco広場→ Orseoloゴンドラ溜り→ Frezzeria通り→ S.Fantin小広場→ Ferretta通り→ Malvasia Vecchia橋→ Cafetier通り→ S.Anzolo広場→ Frati橋→ Novo o dei Morti小広場→ S.Samuele大通り(piscina)→ Tragheto o Garzoni通り→ サン・トマの大運河の渡し舟(traghetto) → Tragheto運河通り→ S.Toma`小広場→ Frari広場→ S.Stin広場→ l'Ogio o del Cafetier通り→ Cristo小広場 → Garzoti運河通り→ Bergama橋→ Longa Bergama通り。

後は目前のスカルツィ橋を渡れば、駅舎は見えています。ヴァポレットだと1時間弱のところを、30分強で到着するそうです。ヴェネツィア人の早足には理由があるようです。
『ヴェネツィア 詩文繚乱』鳥越輝昭先生の『ヴェネツィア 詩文繚乱――文学者を魅了した都市』(三和書籍、2003年6月30日)では、先生は実際にヴェネツィアで部屋を借りてこの本を書かれています。第4章の中に《路地歩き》という楽しそうな節がありましたので若干引用させて頂きます。

「ヴェネツィアは小さな町である。観光スポットも互いに近接している。たとえば聖マルコ広場からリアルト橋へは十分で歩いてゆける(ちなみの水上バスに乗ると、倍の時間が掛かる)。しかし、町に慣れないうちは、心理的には、もっと遠い感じがするだろう。その理由は、右へ左へ折れ曲がる路地を、ためらいながら辿ってゆかざるをえないからである。

ヴェネツィアの町並みは、基本的に、路の両側に建物を建てたのではなく、建物と建物のあいだが路になった、という感じが強い。路は、幅が一定せず、十歩も歩けば湾曲したり、折れ曲がったりする。しかも、路地そのものの突き当たりは袋小路になっていて、路地の途中から、次の路地に繋がることも多い。ヴェネツィアは迷路の町なのである。この町のなかにも、わりあい長くて、折れ曲がりの少ない路が稀にあるのだが、そういう道らしい道は、たいてい十九世紀に町の近代化の一環として造られた新しい道である。

歩き慣れた幹線ルートを外して、すこし冒険してみると、かならず道にまよう。そういうときは、コンパスでおよその方角を確認しながら、大きな目標を目指す。急ぎの用事のないときは、路地で迷い続けるのも、おもしろい。迷い続けるのに飽いたら、建物の壁に「聖マルコ」とか「リアルト」と矢印の着いた黄色いプレートを貼ってあるから、その指示にしたがって、路地から路地へ歩いてゆくと、見慣れた場所へ出る。この町は、治安がたいへん良いから、こんな風にひとりでうろうろしていても、暴力を被ることもない。……

イタリアの詩人ディエゴ・ヴァレーリは長年ヴェネツィアに暮らし、路地歩きを愛した人である。ヴァレーリの随想集『感傷のヴェネツィア案内』(1942)に、こういう一節がある。

《道順をあらかじめ定めないで、路地(カッリ)や小広場(カンポ)を歩き回るのが、おそらくヴェネツィアで体験できる最大の喜びだろう。幸いなるかな、地理をよく知らぬ者。幸いなるかな、何を為すのか、いずこへ行くかを知らぬ者。あらゆる驚きの国、あらゆる異常な発見の国は彼らのものである。細い路地を通り抜け、軒下路(ソットポルティコ)の黒い喉のなかにはいり込む、中庭(コルテ)に出る。袋小路かと見えた中庭に、別の細い路地へ抜ける隙間が見つかる。

窒息しそうなそんな迷路から、風通しが良くて、光が溢れ、人で一杯の小広場か、さもなくば大貴族の広壮な館の戸口か、さもなくば、陽光と風とに開かれた土手路(フォンダメンタ)か、さもなくば大小の船の走る広い小運河(リオ)に出る。それは、予期せぬもの、意外なものほとんど有りえぬもののなかへ歩いてゆくことである。それは、たちまち、子供の頃、驚き、恍惚となったあの空想の国への小旅行を思い出させるのだ。》」
 ――鳥越輝昭著『ヴェネツィア 詩文繚乱』(三和書籍、2003年6月30日)より
  1. 2014/01/15(水) 00:05:17|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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