イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――テオフィール・ゴーティエ(1)

テオフィール・ゴーティエ(1811.08.30タルブ~1872.10.23ヌイイ=シュール=セーヌ)は、1845年スペインを旅し、その記録を出版しています。その後イタリア、ギリシア、アルジェリア、エジプト等と足を伸ばし、1852年『E'maux et Came'es(七宝と螺鈿)』という詩集を上梓しました。『世界名詩集 12巻』中の『七宝とカメオ』(齋藤磯雄訳)にヴェネツィアを歌った詩がありました[ヴェネツィア滞在時はホテル・バウアー・グリュンバルトだったそうです]。
世界名詩集12巻「  ヴェネツィアの謝肉祭 変奏曲
  Ⅰ 街にて
古い小唄のひとふしがあり、
あらゆるヴィオロンがキイキイやつて、
怒つた犬めが吠えたてようと、
あらゆる風琴(オルグ)が鼻鳴らす。

オルゴール式たばこ入れにも
演奏種目に刻み込まれて、
カナリヤたちには古典音楽、
祖母も、幼い頃に覚えた。

このふし奏でて、金管、木管、
(ほこり)舞いたつダンスホールで、
店員、女工を、跳ね上らせる、
さては小鳥を巣から追ひ出す。

忍冬(にんどう)、ホップの、青葉棚かげ、
郊外酒場はこの繰歌(くりうた)
わめいて祝う、陽気な日曜、
アルジャントゥイユの酸つぱい地酒。

空泣(そらな)きバスーンを鳴らす乞食が
指まちがへてこのふし吃(ども)れば、
お椀を咥(くは)へたむく犬もまた
そばで小声でこのふし唸る。

痩せた少女のギター弾きたち
派手な格好の細い肩掛、
音楽カフェのテーブルめぐり
哀れな声で流すのもこれ。

或る夜、幻想家パガニニが、
屑屋が鉤(かぎ)でやるやうに、
その神々しい楽弓(ゆみ)の先で
この古めかしい主題(テーマ)を拾ひ、

まだ安ぴかの飾りもとれぬ
(あ)せた薄紗(はくしゃ)に刺繍をほどこし、
軽蔑されたこの楽句(ふし)に、
金糸の唐草模様を描いた。

  Ⅱ 入海にて
トララ、トララ、ラ、ラ、ラレール、
この曲、知らぬ人があらうか。
優しく陽気、皮肉で哀しく、
われらが母親(ママン)のお気に入り。

このヴェネチアの謝肉祭の唄、
むかし運河で歌われてゐたが、
気まぐれ風のため息が
バレーの中に運んで来た。

この曲聴いて眼に浮ぶのは、
ヴィオロンの棹(さお)さながらに
(へさき)渦巻くゴンドラの
水脈(みを)青々とすべりゆくさま。

半音階の旋律(しらべ)に乗って、
胸に真珠の雫(しづく)を散らし、
アドリア海のヴェニュスが、水から、
薔薇色、白の、裸身(らしん)をあらはす。

円屋根(ドーム)が、波の紺碧の上、
輪郭さやかな楽句につれて、
ふくらむさまは、まるい乳房(ちぶさ)
恋の吐息でもちあがるやう。

淡紅色(たんこうしょく)の大玄関の
大理石(なめいし)づくりの階段(きざはし)に、
舟は近づき、舫(もや)ひの索(つな)
杭に投げかけ、わたしを降ろす。

その宮殿と、そのゴンドラと、
またその海上仮装隊、
甘い哀しみ、底抜け騒ぎ、
ヴェネチアは挙げて、この曲にある。

ふるへをののくかぼそい絃が、
ピッチカートに載せて、ふたたび、
昔のやうに楽しく自由な
カナレットーの都をつくる。  」  (続く)
 ――『世界名詩集 12巻』(平凡社、昭和四十三年五月二十五日)中、テオフィル・ゴーチエ『七宝とカメオ』(齋藤磯雄訳)より
  1. 2014/07/10(木) 00:05:40|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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