イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――板垣鷹穂

『世界紀行文學全集 イタリア』第5巻(修道社、昭和四十六年九月三十日)の中に、芸術学者板垣鷹穂の『イタリアの寺』(芸文書院、大正一五年一一月)の中の《小寺小品》に“ヴェネチア”があります。以下引用をしてみます。
世界紀行文学全集「――サンタ・マリア・デイ・ミラコリ――
緑青色をした水を豊かにただよわすカナル・グランデがサンタ・マリア・デル・サルーテの青白い壮麗な影につきて、カナレ・デイ・サン・マルコの広々とした彼方には、サン・ジオルジオ・マジオーレの端正な姿が穏かな水面に浮んでいる。人の世の宮殿とも思えぬ程に空想的なパラッツォ・ドゥカレに沿うて狭いカナルに漕ぎ入るゴンドラは、《歎きの橋》をくぐって静かに進む。

それからは、路地のように狭く、曲折の非常に込み入ったカナルがしばらく続く。舟人達の交わす物憂げな合図の声が、カナルの辻を通るごとに幾度か繰り返されて、両側の家の古びた壁に微かに反響を残して行く。

そのカナルが益々狭くなり、両側の家も益々みすぼらしくなったところにサンタ・マリア・デイ・ミラコリがある。細やかな石橋の側に、淀んだ緑色の水に其の小さく美しい影を漂わせて立つ寺である。大きく考えて聖体を納める棺、小さく考えれば宝石を入れる小箱――と云ったような形である。

半円形の屋根の形が、蝶番(ちょうつがい)で横に開く箱の蓋のようにみえる。黒っぽいくすんだ色の半角柱とアーチとの框に囲まれた明るい色の地肌には、ヴェネチアの建物によくみる幾何学模様めいた単純な図形が、青みがかった大理石とうすい赤の大理石とで半透明に象嵌されている。

それが寺全体の輪郭になお更小箱らしく可愛らしい感じを与える。くすんだ色の聖母像を浮出させたアーチの下の低い扉を展いて堂内に入ると、中は、半円アーチの天井に掩われた単純な長方形の堂で、奥のコーロは、欄をまわし何階かの段上に物見台の如く高まっている。

この小ぢんまりした堂の内は、床も壁も一面に美しい色大理石に装われている。色は鮮やかだが、調子が半透明にシットリしているから、別段わざとらしくきらびやかな感じを起さない。 ……」
  1. 2015/10/08(木) 00:01:47|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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