イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

書籍『ヴェネツィアの放浪教師』(3)

(続き)
「ヴェネツィアの社会を考えるときに何よりも重要な事実は、際だった現実性とその現実性からもたらされる世俗性である。強大な交易都市国家を動かしていた《ヴェニスの商人》たちは、商業上の利益をあらゆるものに優先させた。それが国益につながった。だからこそ、国益にそわないとなると、たとえ教皇庁の要求であってもガンとして受け入れなかったのである。
『ヴェネツィアの放浪教師』すでに述べたように、町の中心にある聖マルコ教会は、ドージェの個人的な礼拝堂にすぎず、司教座聖堂は中心部から離れた町の東端にあった。この事実は、ヴェネツィアの政治・経済の際だった世俗性を象徴的に表わしているのである。

政治権力から教会権力が排除されていたために、たとえヴェネツィア市民であろうとも、いったん聖職者になったら、一切の政治・行政上の公職には就けなかった。それゆえ、他の都市と異なって、貴族層で聖職者になろうとする者は著しく少なかったのである。

一四世紀から一五世紀にかけてのヴェネツィア社会は、四つの階層から成り立っていた。貴族(nobili])、市民(cittadini)、庶民(popoli)、そして聖職者(clerici)がそれである。このうち、聖職者はすでに述べたように政治・経済的には重要な役割を果たしていない。庶民層というのは非熟練労働者、職人、商店主などである。

貴族に次ぐ地位を占めた市民層は、二世代以上にわたって市民権を持つ名誉ある旧市民(cittadini originarii)、書記・公証人組合加入権を持つ市民(de intus)、市外商業権を認められた市民(de extra)、などに細分化されていた。そして、このうち旧市民と書記・公証人グループだけが、書記官庁(Cancelleria)や裁判所の官吏になることができた。

つまり職業という観点からすれば、市民層は、ヴェネツィアの行政官職を独占した官僚層と、商人層、そして医師や弁護士などの専門職層にわかれていたのである。

問題は貴族層である。ヴェネツィアの貴族を、封建国家における土地貴族のように考えると、ヴェネツィア社会を理解できなくなってしまう。彼らは、土地貴族ではなく、いわば政治貴族であった。商人たちの中から、政治に参画する権利を有する者のみが貴族とされたのである。

ことに、一二九七年に、過去四年間に大評議会(Maggior Consiglio)のメンバーであった家系に属する者のみが貴族とされてからは、彼らは閉鎖的な貴族階層を形成した。以後、一三八〇年のジェノヴァとの戦役で、財政的に貢献した三〇家系があらたに貴族に列せられたのを除いて、トルコとの戦役で貴族の特権を売却するようになる一六四六年まで、貴族層は完全に閉鎖されていた。

その議員資格によって貴族層を特徴づける大評議会は、ヴェネツィアの国会の下院に相当した。大評議会のメンバーからさらに上院(Senato)の議員が選出された。これは、古代ローマ風に訳せば元老院で、ヴェネツィアの最高議決機関であった。

上院議員と同様に、首相にあたるドージェとそれを支える六人の閣僚や、勇名を馳せる検察情報機関である十人委員会も、大評議会から選出されたから、大評議会こそヴェネツィア政治の要であった。貴族層は、この大評議会を中心とする政治機構を独占していたのである。 ……」 ――(4)へ続く
  1. 2016/01/07(木) 01:17:20|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは十数年前。ヴェネツィアには即一目ぼれ。
その結果、伊語勉強のためにヴェネツィアの語学学校に何年間か数ヶ月通いました。
その後もヴェネツィアを訪れるたび、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら書くのが楽しいのです。

*図版はクリックすると拡大されます。

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