イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

ヴェネツィアの伝説: ノーヴェ海岸通りの7人の魔女(1)

以前ヴェネツィアには幽霊話が似つかわしいと、そんな伝説を幾つか書きました。今回は魔女のお話です。M. ブルゼガーン著『ヴェネツィアの神話伝説』(Newton Compton editori、2007.10)から次のお話をどうぞ。
Marcello Brusegan『ヴェネツィアの神話と伝説』「伝説が伝えているのは、カンナレージョ区のフォンダメンテ・ノーヴェに沿って、かつて7m以上もあるラテン帆を張った素晴らしいサンピエロータという美しい舟を繋いでいると、誰かが繋舷した場所を移動させてしまうというような事がよくあったということである。ということは、舟が舫っている時は特に監視の目を光らせていた(それはヴェネツィアの古い俚諺 barca neta no vadagna――もし舟が綺麗に清掃してあれば、最近漁に出ていないから櫂は水に浸かっていない、の意――を無視してのことである)。

《サンピエロータ舟: 独特の型の舟でこう呼ばれ、たっぷり6~7mの大きさと変化があり、誕生したのもペッレストリーナ海岸のサン・ピエーロ・イン・ヴォルタ地区が起源である。ラグーナの古い舟の中でも比較的最近の物で、19世紀から作られるようになった。櫂かラテン帆で運行され、典型的な形をしている(元々起源であった流線型のサンドロ舟(sandolo)に比べて胴が膨らみ、幅広になっている)。ラグーナでのちょっとした漁のために生まれたもので、波が荒れる度に左右され、港の入口に避難する。》(囲み記事より)
sanpierotasanpierota%20Venezia[サイトから借用]  [ウィキペディアで説明を補強しますと、《ヴェーネタ潟伝統の木製平底、潟での漁用としての起源の舟。舳、艫に漕ぎ手2人、あるいは艫の1本櫂、又はヴァレザーナと言う2本櫂漕、あるいは外部にモーター付き、あるいはラテン帆で進む。帆は主墻に掲げるスパンカー(主帆)とマスト上に飾り帆を着ける、か、舳の板の上の帆柱にフォアスル帆で形成される。サンドロ舟の進化形で、そのラインはトーパ舟(topa)のようで、舟身も似て短く幅広で浅い。波を受ける舳は高く、広い。製造もトーパ舟に似て簡単、舟体は火で形の湾曲を求めることなく、板の柔軟性をそのまま生かしている。》]

舟はよく磨かれた板で蓋がされ、舷側は青と赤で色が施され、最大帆のスパンカーは黄色地に赤と黒の罫線が入り、最小帆のフォアスルは白と橙色である。結局、運河というものは譬え大きいものでなくとも見たくなるものであるし、特に風が横風で強く、小止みなく吹いた時など、帆で〝手綱を引き締め、トロットで進む″ことが出来る。
ブリコラ頁サンピエロータはニコロの情熱そのものであり、運び屋と呼ばれ、彼にはこの舟ほど価値あるものは何もなかったから、殆ど熱狂的な思いで舟を扱った。だから所有者(paron)ニコロにとって、ある朝、夜間知らない内に誰かがそれを使ったと気付いた時、それは彼にとって青天の霹靂だったというのは驚くに当たらない。傷が付いたとか汚れたとかではなく、パリーナ(palina=運河に立つ1本棒の繋舟用の杭、一方bricola(ブリコーラ)は数本セットの潟の航路標識用の杭)に舟を繋ぐ繋舟用の索の結束法が、彼が常々やっている方法とは異なっていた。

ところで何が起こったのか? 明確な解答には至らなかった。それだけではなく、何度も毎週終わり驚くべき事が繰り返された。酷過ぎた! そしてニコロは今や調べる時と思い、こんな悪ふざけの張本人を現行犯逮捕しようと決めた。如何にして? 近くの隠れ家に潜んでいるだろう者を上手く見つけ出す方法も、このならず者を現場で捕獲する方法も思い浮かばなかった。

長い間待った。深夜の鐘の時、何かが起こった。襤褸を着て、汚らしい女が7人、海岸通りをお喋りしながら、下品に笑い転げ、舟を舫った桟橋に近付いていった。一人ずつ大袈裟にサンピエロータに飛び乗った。6人は3人ずつ大鍋のような台に腰を下ろし、一番長老と思しき7番目の老女が艫に座り、舵を掴んだ。

マストロ・ニコロは誰か悪党に出遭ってもどうしていいか分からなかったし、7人の女に遭うなど思いも寄らなかったので、混乱のあまり、自分の正体がばれるのを恐れて、この際自分のなすべき事は何だろうと思っていた。

その間、舟上では2人の女が舟の舫いを紐解こうとしており、舵を握る長老が呪文を唱え始めた。それは《一番手開始、二番手開始、三番手開始……》 そして《七番手開始》 で終わった。その時舟は船脚を進め始め、宙空に持ち上がり、南の方向に軸足を向けた。

《何て事だ! この女達、魔女だ!》 ニコロは呆然と恐れ慄いて思った。《神様、この邪悪な者からお守り下さい》 そう言いながら十字を切った。恐ろしさのあまり、一晩中倉庫に隠れていたが、夜明け前、舟は飛んで行き、彼の桟橋には戻って来なかった。

その後戻って来ると、魔女達は宙空から下りてじゃれ笑いしながらお互いの肩を叩き合って、海岸通りを慌ただしく遠ざかって行った。

あぁ、哀れなニコロ! お前は何をなすべきか? 何が口に出して言えるか? 誰にこんな驚くべき体験を話せるか? 誰も信じないに違いない、皆は彼が気が違ったと思うだろう。事実こんな風に事は起ったのだ! 彼が見た夜間の体験を語った人全ては、彼の顔を見て嘲笑したのであり、教区の警官や神父達は彼を不憫に思った。

しかし事はそれだけでは済まなかった。魔女の一団もあの彼の美しい舟を勝手に使うことを許さなかったので、あの7人の魔女がどこへ行くのか探るために、勇を鼓して舟の中に隠れてみることにした。……」 (2へ続く)
  1. 2016/07/14(木) 00:03:13|
  2. ヴェネツィアの伝説
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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