イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

ヴェネツィアの伝説: ノーヴェ海岸通りの7人の魔女(3)

(続き)
「一番若い魔女が一人残って、ニコロは言い訳がましく声を掛けながら彼女に近付いた。彼女は理解が早く、直ぐ様この若い運搬人が何を望んでいるか、悟るが否や、満面に笑みを浮かべ、熱烈な一目惚れに陥ったのだった。即座に愛を告白して二人は結婚した。
フォンダメンタ・ノーヴェ海岸アノニムス[左、フォンダメンタ・ノーヴェ海岸地図、北対岸に墓の島サン・ミケーレ。右、画家不明『1708年のノーヴェ海岸の凍結』]  新郎新婦の間には、“平穏な”結婚生活は長くは続かず、娘は次第に激しくニコロを夜の外出に誘い、友達らとオステリーア(食事処)に繰り出し、明るい月光の下、気晴らしにニコロを夜の散歩に連れ出した。

彼に対してこんなに思いやりのある妻に出会って最初は幸福だった。更にはこうしたニコロに対する変わらぬ思いはますますミステリアスな色合いを帯び始めた。《恋人でも出来たのか? 彼女と一緒に居たい夜に、僕を外に連れ出すのは何故?》。

ある夜、12月24日の金曜日という、魔女には特別の日、食卓に釘付けになって、梃でも動こうとしなかった。《僕は外には行かないよ。家に居るよ。君がする事を見ていたい!》 何か心配になった若い魔女は彼を言い包めようとしたけれど、丸で功を奏しなかった。ニコロは頑として動こうとしなかった。

その時魔女の娘が言った。《いいわ、私がやってる事知りたいなら、一緒に来て頂戴。この呪文を一緒に唱えて〝Corpo de su, corpo de zo(体を上へ、体を下へ)″って、夜12時になった時、驚いては駄目よ。》 厳然たる静寂の中、鐘楼の鐘の音が12ヶ鳴るのを待った。12番目の音が消えようとした時、ユニゾンで唱和した。《体を上へ、体を下へ》。

と、突如、壮麗な王宮の宴の大広間が現出した。そこには特に顔を仮面で包んだ、エレガントな素晴らしい装いの沢山の人々が集っていた。魅力的な音楽が辺り一面に鳴り響いていた。制服姿の小姓達が飲物やデザートを運び、皆は笑いさんざめき、幸せそうだった。

《でも、あの人、誰?》 ニコロが叫んだ。《テースタ・ドーロの薬屋さんだ、ほれ、ご覧、アヴォガドーロ弁護士さん、産婆のジョヴァンナさん、サン・サルヴァドールの仕立て屋さん、サン・ザッカリーアの修道女の看守さん、収入役のドルフィーンさん、ナヴァジェーロ船長だ。でもよく見ると皆悪魔や魔女だ。でも今まで誰かそんな事言った人いるんだろうか?》。

ニコロは驚愕のあまり口をアングリさせて、ホールの真ん中で棒立ちで佇んでいた。そこでは沢山のカップルが音楽の名手達の甘美な演奏に優雅に踊り回っていた。

その時、長身で洗練された、目も髪も黒々として、口と顎に長々とした鬚髯を蓄えた一人の紳士が彼に近付いてきた。快い芳香が漂い、特別の香気を発散させていた。強烈とも言える香だった。《ニコロ君、こちらへお出で。君と話がしたいんだ。》 その未知の人が言った。しかし彼は、それが誰なのか分かっていた。ベルゼブ(魔王)その人だった。

《君の奥さんは真の花ですよ。才能もあり、将来は大貴婦人となられますよ。で、君にはお望みなら、お教え出来ますよ。》 ニコロはその新しくやって来た人物を目を皿にして見詰めた。しかし彼の望んでいる事は、この悪魔が直ぐに立ち去ってくれることだった。《閣下、全く以って、閣下に対して私が何をなすべきか分かっていないのです。》 この荷物運搬人は言い逃れを言った。

《来なさい、ニコロ君、書斎まで付いて来なさい。金貨を一山差し上げよう。これさえあれば、君の花嫁に素晴らしい生活をプレゼント出来ますぞ。それにもっと幸福になれること、請け合いだ。》 金貨の山が舞い込んだ。そんな物、見た人いるのか? ニコロは考えた。でも僕に何を望んでるんだ?

《ニコロ君》 悪魔は続けた。《約束をこう決めよう、私は君にこの金貨を差し上げよう。》 こう言って上着のポケットからポケット一杯のお金を取り出し、人が腰を下ろしているソファーの前の低いテーブルの上にぶちまけた。《怖がらずに、君はこの契約書にサインして呉れたまえ。心配することは何もないよ。事は全て君の死後の事だから》。

それは悪魔がニコロの心を買い取るという恐ろしい契約だった。《嫌です。そんな事受けられません。あなたのような悪魔に魂を売るよりは、惨めな貧乏人として一生を全うする方がずっとましです。僕の愛しの魔女ちゃんは僕がするようにきっとします。何時も口にしているように僕を愛しているなら、この生活に直ぐ慣れますよ。》 こう言うと呪文を順序逆に唱えた。《体を下へ、体を上へ》 その瞬間、自分の家の台所に居た、傍らに若い妻を従えて。

二人は抱き合い、永遠の愛を誓った。ニコロは忘れる事なく、次の日のクリスマスの日、サン・トロヴァーゾ教区の司祭で有名な祓魔師の所に行って、あった事全てを話した。その時司祭は、その若い女を邪悪から解放するには悪魔祓いの呪文で事を行う必要があると言った。魔女の魂を持つ女を解放するには、あるいはニコロがもしそうしたいなら、その魂の分離の瞬間、彼でもやることが可能だ、と。

ニコロは若妻が眠りに落ちる時を待たねばならなかったことだろう。口からか鼻からか毒虫が飛び出すまで、徹夜で彼女に付き添って、分離の瞬間があった。その時魔女は黒蠅となって死んだような少女の魂の抜け殻から飛び出した。その時ニコロは黒蠅が2度と戻らないように、娘の鼻の孔と喉を蠟で蓋をしなければならなかった。夜明けの太陽の曙光と共に娘はデーモンから完全に解放され、新生の命と共に目覚めた。

ニコロはこんな風にやったのだった。新郎新婦は苦楽を共にして自分達の明るい人生を歩んだ。娘は名前を変えたいと、聖処女のようにマリーアと呼ばれることになった(いかなる悪魔も神の母の聖名を持つ女には対抗出来ない)。そして全ヴェネツィアの中で最も善良で賢明なる女となったのだった。」 (終り)
  1. 2016/08/04(木) 00:04:53|
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ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

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