イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――タニス・リー

タニス・リーという英国の作家が『ヴェヌスの秘録』第1巻《水底の仮面》(柿沼瑛子訳、産業編集センター、2007年3月31日、他第4巻まで)が出版されています。このシリーズ第4巻《復活のヴェヌス》(2007年6月30日)のあとがきで、訳者は次のような解説を書いています。
水底の仮面ヴェヌスの秘録、2,3巻復活のヴェヌス「……本作『復活のヴェヌス』は四部作を締めくくる作品でもあり、ここでこのシリーズについても少しお話しておくことにします。このシリーズはいずれも水上都市ヴェヌスを舞台にしていますが、これはもちろんイタリアのヴェネチアがモデルになっています。役者もかつてヴェネチアに三回ほど滞在したことがあるのですが、車というものが存在しない街のたたずまいには、かつて某文豪が語ったように、どことなく夢のなかの街のような、日本に帰ってきてからも、はたしてあれは現実にあったのだろうかと思わせるような、どこか幻想めいた雰囲気があります。幻想が紡ぎ出す現代の語り部タニス・リーにとっても、これ以上に舞台としてふさわしい場所はないでしょう。

まず第一巻『水底の仮面』は十八世紀初頭のヴェヌスが舞台になります。ある事情からヴェヌスのスラム街に身を落とし、今は怪しげな錬金術師の弟子として鬱々たる日々を送る、怒れる貴族の青年フリアン。彼は仮面をつけた美女エウリュディケに出会い、恋に落ちてしまいます。そして彼女を巡る謎、とりわけ彼女に捧げる歌を残して死んだ、ある青年作曲家の歌を巡って、ヴェヌスのもっとも影の領域へと足を踏み入れていきます。謎の仮面ギルド、錬金術、蘇生する鳥と、いかにもリー好みの素材を駆使した冒険ロマンスが展開されます。……

第二巻『炎の聖少女』はさらに時代をさかのぼり、ちょうどフィレンツェでサヴォナローラらによる宗教改革運動がまっさかりだったころの中世ヴェヌスが舞台になります。火を呼ぶ能力のある奴隷の少女ヴォルパが、醜い世俗の権力に翻弄されながら、本人もまったく与り知らぬうちに聖女とされていくという、どこかジャンヌ・ダルクを思わせるストーリーですが、さらに彼女と、神以外の何者をも愛することのない氷のようなキリストの戦士との、およそあり得ぬ恋の物語になっています。……

第三巻『土の褥に眠る者』はルネッサンス最盛期のヴェネチアが舞台の華麗なる復讐譚であり、タニス・リーの作品に共通して流れるテーマである〈輪廻〉と〈変身〉がもっとも色濃く出た作品であるともいえます。墓堀人バルトロメの口を通して語られる敵対するふたつの名家をめぐる血なまぐさい復讐の年代記。主人公のベアトリクサとシルヴィオは対立するふたつの家というだけでなく、さらには人間と幽霊という世界にも隔てられた、いうなれば二重の意味での「ロミオとジュリエット」なのですが、このふたりの恋の行方と、さらに全編に流れる残酷美は、まさしく血とエロチシズムの作家であるリーの真骨頂といえるでしょう。……

そして第四巻であり、シリーズ最後の本作品『復活のヴェヌス』では一気に時代は未来に飛び、すでに水没し、海中ドームの中の水中都市として保存されているヴェヌスが舞台のSF仕立てになっています。昔の死人を再生させるという一大プロジェクトにより、未来のヴェヌスによみがえった古代ローマ時代の女性剣闘士と、十七世紀の作曲家、そして避け難い運命に導かれてヴェヌスにやってきた、暗い影を負うミュージシャンのピカロと、常に怒りに燃えている古代学者のフレイド、この四人の運命がクアルテットのごとくからみあいながら、最後にヴェヌスの運命おも含めた壮大なクライマックスを迎えることになります……。」
  ――タニス・リー著『ヴェヌスの秘録』第4巻《復活のヴェヌス》(柿沼瑛子訳、産業編集センター、2007年6月30日)“あとがき”より
  1. 2017/01/26(木) 00:04:12|
  2. ヴェネツィアに関する言葉・文学
  3. | コメント:0
<<ピアニスト、ルイーザ・バッカラ(1) | ホーム | サン・スターエ教会>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

カウンタ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

プロフィール

ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手知ったヴェネツィアを先ずは訪れて、各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

最近の記事+コメント

カテゴリー

ブログ内検索

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

このブログをリンクに追加する

過去ログ

フリーエリア