イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

潟(ラグーナ・ヴェーネタ)の自然

東のピアーヴェ(Piave)川河口から西のブレンタ(Brenta)川河口に至る海岸地帯は、ヴェネツィア本島がその中央に位置している《ヴェーネタ潟(Raguna veneta)》と言われ、イタリアでも最重要な湿地帯です。そしてイエーゾロ(Jesolo)からキオッジャ(Chioggia)まで、太い縄状に延びるカヴァッリーノ(Cavallino)半島、リード、マラモッコ(Lido、Malamocco)島、ペッレストリーナ(Pellestrina)島でアドリア海から隔てられ、潟を《閉じられた》空間とし、潟の自然を外海からも守るような形になっています。
ヴァティカン、地図の間[ヴァティカン、地図の間。"VENETIA"より] 800年代初め、フランク王ピピンに攻められた時、潟の浮標等水路表示物一切を取り払い、潟に攻め入るピピン軍の船を浅瀬に座礁させ、ヴェネツィアを救った歴史以来、共和国政府は潟が陸化することを恐れ、ブレンタ川やシーレ(Sile)川が潟に土砂を運び込まないように流路を変更し、放水路が直接外海に注ぐよう工事をしました。

元々の川には新たに閘門を設けて運河化し、流速を抑え、土砂が移動しない処置が講じられました。地図で現在のブレンタ川とシーレ川の流路を見ると、大変興味深い思いに駆られます。

それ以来何世紀もの間、潟の自然はあまり変わっていないと思われます。その点正に生物達の楽園であり、海の海水と川の淡水が混じる汽水域として、陸生、海生、両生の動植物が共存する、世界でも稀有の生態系を持つ領域ではないでしょうか。

潟はおよそ550k㎡の塩水の広がりで、全般に水深が非常に浅く、潮の干満によって陸地が見え隠れする洲(secca)状地で、人々は潟を埋め立て、堤防を築き、運河を掘削して、ヴェネツィア本島を少しずつ立ち上げ、ブリコーラ(メーダとも)とかダーマ(3本を束ねた杭の内、水路の始まり終わり、交差路等の区切りを示すため1本が高く飛び出している)と呼ばれる澪漂(みおつくし)としての水路表示の杭を並列させて水路を浚渫し、船の運行を容易にしました。自由に航行するには Carta idrografica(海運図)が必要になります。
Venezia無数にある無人有人の島(正確な数は分かりません、沈んだり現れたり)は、長い間に高潮等によってその姿形を幾度も変えたり、また沈んでしまったものもあるようです。TVのドキュメンタリー番組で、教会と共に沈んでしまって今は存在しない Boccalama 島に係留されていた、潟に沈む貴重なガレー船の、潟の水を堰き止めての発掘調査の模様を撮ったフィルムを見たことがあります(この島の修道院には、かつてペストで亡くなった大量の亡骸を収容したのだ、とか)。

潟や潟の島々では人々は庭園や菜園を作り、夥しい種類の野菜や果実を育て[アーティチョークのカストラウーレ(castraure)はサンテラーズモ(S.Erasmo)島の特産]、避寒避暑や狩猟を楽しむ場所として、また養魚場として牡蠣、高価な鯛、舌鮃、鱸(すずき)等の養殖にも利用されています。

潟の澱んだ箇所には鰻や鯔(ぼら)の魚類、蛙や蟇蛙等の両生類、また島の森を好む鼬、胸白貂(参考にした文献の《faina》は小学館の伊和辞典では《ブナテン》と出ていますが、白水社の伊和辞典では《胸白貂》とあり、ここでは後者を採用しました)、狐等の哺乳類が棲息しているそうです。

しかし何と言っても潟の主人公は鳥類と思われます。自然が豊富な餌を提供するので、季節により葦原等に各種の鳥が輻輳します。名前を列挙すれば青鷺、子鷺、尾白鴫、緋鳥鴫、尾長鴫、翡翠(かわせみ――martin pescatore、 私はこの伊語の音の響きが気に入っています)等、限りがありません。

植生には、塩分を含んだ湿地帯でも育つ広塩生植物の蒲や葦の原、藜科の厚岸草(salicornia――野菜として食用)、磯松科のスターチスの一種(?――limonio)、菊科の海のアスター(astro marino)等以外に御柳、柳、白楊(ポプラ)、楡、松、糸杉、常磐樫、椰子、菩提樹、アカシア等、枚挙に遑がありません。

リアルトの魚市場へ行けば、潟に棲息する魚の姿が見られます(大半はアドリア海で獲れたものでしょうか):
蝦蛄(しゃこ――リアルト市場で子持ち蝦蛄を購入、茹でて食し、その美味だったこと!)、甲烏賊、海老、モエーカ(蟹=moleca、moeca、moecca、ヴェネツィア語では母音に挟まれたL(エル)は通常発音しないので、省略したスペルもあります)、平鯛、比売知、舌平目、鯔、鱸……、その豊富さに目を見張ります。貝の《海のトリュフ(tartufo di mare=伊語 cappa verrucosa=ヴェ語 caparossolo/caparozzolo?――マルスダレ貝科あらぬのめ貝)》は珍しく生食(pescecrudo)されます。
[この高価な貝の生食が刺身のように美味であることを知らないヴェネツィア人は結構いるようです。煮て食べた人を知っています。煮たらあの微妙な味は飛んでしまいます]。
  1. 2008/10/19(日) 00:03:00|
  2. ヴェネツィアの自然
  3. | コメント:0
<<アックァ・アルタ(高潮) | ホーム | 日本の旅(2)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

カウンタ

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

プロフィール

ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

最近の記事+コメント

カテゴリー

ブログ内検索

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

このブログをリンクに追加する

過去ログ

フリーエリア