FC2ブログ

イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

『ヴェネツィア幻視行』

ジャネット・ウィンタースン著『ヴェネツィア幻視行』(藤井かよ訳、早川書房、昭和63年7月31日)を読みました。ナポレオンに憧れ、彼の召使いとなったアンリは、ヴェネツィア生まれの娘ヴィラネルと出会い、恋に落ちます。ヴィラネルのヴェネツィアとはどんな?
ヴェネツィア幻視行「……わたしは夜が好きです。ヴェネツィアではずっと昔、わたしたちが独自の暦を持ち、世界に超然としていたころでは、一日は夜始まったものです。わたしたちの商売も秘密も外交も暗闇が便りという時に、太陽が何の役に立つというのでしょう? 闇の中で人は変装しますが、ここは変装の都なのです。

あの頃(わたしにはそれを時の流れの中に置くことができません、何故なら時間は昼の光と関わりあっているからです)、陽が沈むとわたしたちは戸口を開け、火屋(ほや)をつけた明りを舳先にかかげ、滑るように漕いでいったものです。

その頃はここの船は全部真黒で、止まっても水に跡一つ残さなかったものでした。わたしたちの町が取引きしていたのは、香料や絹。エメラルドにダイヤモンド。国家機密。わたしたちが橋を造ったのは、水の上を歩いて渡るのを避けるためだけではありません。そんなにはっきりしたものじゃないのです。

橋って人の集まる場所です。中立的な場所です。気のおけない場所です。仇敵同士が出会いの場に橋の上を選び、この中立の場で決着をつけるという場所なんです。一人は向こう側に渡れる。もう一人の方は戻ってこないでしょう。恋人たちには、橋は一つの可能性であり、自分たちのチャンスの隠喩なのです。そして、ひそかに品物を運搬するためには、夜の橋ほど適当な所が他にあるでしょうか?

わたしたちは哲学的な人間で、貪欲と欲望の本質に精通し、神と悪魔の双方と手を握っています。そのどちらも離したくないんです。この生きもののような橋が全てをそそのかし、人はここで魂を失ったり、見つけたりもするのです。……

大運河(グランド・カナル)[普通はカナル・グランデと言っています]はもう野菜船で賑わっています。遊びにきているのはわたしくらいのもので、他の人は積荷を固定したり、友達と議論する合間に、物珍しげにこっちを眺めています。あの人たちはみんなわたしの同朋、だから気のすむまで眺めても結構です。

わたしはリアルト橋の下まで漕いでゆきます。この風変わりな橋は途中で切れていて、街が二つに分れて戦闘状態になったとき、
街の半分との往来を止めるために、引き上げることができるのです。この橋が上げられれば人々は封じ込められて、ついには親子とか兄弟ということになってしまうでしょう。だが、これが逆説の運命というものでしょう。

橋は結び合わせるのが、分つものでもあります。……

大時計のムーア人の人形がハンマーを振りあげ、交互に振りおろします。まもなく広場には人がおしよせ、暖かい吐く息が立ちのぼって、頭上に小さな雲ができることでしょう。わたしの息は火龍のように、まっすぐ前に吐き出されていきます。先祖たちは水辺のあたりから叫び声をあげ、サン・マルコ寺院のオルガンが響き始めます。

凍結と融解のはざまに。愛と絶望のはざまに。恐怖と性欲の間に、情熱は存在しています。わたしは櫂を水の上に平らに置きます。一八〇五年の元旦です。 ……」
  1. 2018/06/07(木) 00:51:33|
  2. ヴェネツィアに関する言葉・文学
  3. | コメント:0
<<リアルト、サン・ジャコメート教会の時計 | ホーム | 書籍『ヴェネツィアの高級娼婦』(4) >>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

カウンタ

カレンダー

07 | 2018/08 | 09
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

プロフィール

ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

最近の記事+コメント

カテゴリー

ブログ内検索

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

このブログをリンクに追加する

過去ログ

フリーエリア