イタリア、とりわけヴェネツィア(Italia, soprattutto Venezia)

ヴェネツィア偏愛、時には脱線。

文学に表れたヴェネツィア――ヘンリー・ジェイムズ(2)

「《ヴェニス》という名前を書くのはまことにいい気分である。」という文章で始まる『郷愁のイタリア』(海外旅行選書、千葉雄一郎訳、図書出版社、1995年2月28日発行)は、ヘンリー・ジェイムズのヴェネツィア絵画好きが明確に現れたイタリア旅行記のようです。
『郷愁のイタリア』「ラスキン氏の著作をひもとくことはまことに結構なことであり、この街に関する古い記録を読むことは、おそらく一層すばらしいことであるに違いない。だが、いちばんいいのは、単に滞在することだ。ヴェニスをその街にふさわしく愛する方法はただひとつ、その街にしばしば触れさせる機会を与えることであり、そのためにはぐずぐずとその街に居座わって長居し、どこかに飛んで行って、また舞い戻ってくることだ。」
と、ジェイムズは“Ⅰ”章の終りを締め括っています。

更に“Ⅱ”章では、
「ヴェニスの持つ豊かな魅力をそれと知るのは毎日その街に住むことによってであり、そうしてこそ、初めてその微妙な影響が心の奥底にまで沁みるのだ。この街は神経質な女性のように変るので、そうした女性を理解するのは、彼女の美のあらゆる面を知り尽くした、その後のことになるのである。

高揚した気分のときもあり、暗くうち沈んでいるときもある。青白いときもあれば紅潮しているときもある。冷淡なときもあれば、激しく熱しているときもある。新鮮な場合もあり、あるいは物憂さそうな場合もある。すべては天候や時間によるのであり、ヴェニスの街はつねに興味深く、またたいていの場合悲しげだ。」

ブラゴーラのサン・ジョヴァンニ聖堂[サン・ジョヴァンニ・イン・ブラーゴラ教会のこと]とかサン・ロッコ学校[サン・ロッコ大同信会館のこと。scuola は学校ではなく、小学館『伊和中辞典』の第6の意味、ヴェネツィアの《信徒会》のこと]等、訳語に?がある所もありますが、ジェイムズのヴェネツィアに対する思いは強烈に伝わってきます。

「この街の開口部の眺めがもっともすばらしいのは、おそらく夏の日の朝の、サルーテ教会の階段からの眺望だろうと思われる。そのときにはあらゆるものが申し分なく構成されているのだが、それはまるで、構成こそ人間の本能の主要な目的であるかのようである。

魅力的なドガーナ・ダ・マール教会がもっとも優美な腕を差し伸ばし、その手の中では金鍍金された地球儀がバランスを保っていて、その上には女性の形をした小さな風見の、愉快で皮肉な像がまわっている。

大運河の別の側には幸せな宮殿(パラッツォ)の長い列が瞬き、輝いているが、それらの大部分は、今日では贅沢なホテルになっている。

明るいヴェニスの空気の中ではいたるところにあらゆるものが少しずつ存在するが、これらの建物の外見は、水を隔てて関税を取り立てるためにそこに座っているかのようであり、偽善的な愛想のよさで異邦人や犠牲者を眺めているかのようような感じがする。

私はそれらの建物を幸せなと呼ぶが、それと言うのも、それらの建物の曖昧な、潮風にさらされたピンク色と黄褐色で、時代遅れの建物の反映を補う光と色彩の異様な陽気さの中に、いつの間にか溶け込んでしまっているからだ。」
  ――『郷愁のイタリア』(千葉雄一郎訳、図書出版社、1995年2月28日)より

《ドガーナ・ダ・マール教会》とは教会ではなく、《金鍍金された地球儀がバランスを保っていて、その上には女性の形をした小さな風見の》とあるので海の税関舎のことでしょう。 《塩の倉庫》は大分前からすっぽりテントを被って工事中で、昨年11月にも税関岬の突端まで行けませんでした。何かに変貌するレスタウロ(restauro)なのでしょうか。
[2012.10.12日追記:  安藤忠雄さんの設計で塩の倉庫が美術館に変更されるための工事だったようです。]
  1. 2009/04/11(土) 00:01:14|
  2. ヴェネツィアに関する言葉・文学
  3. | コメント:0
<<文学に表れたヴェネツィア――ライナー・マリア・リルケ(1) | ホーム | 文学に表れたヴェネツィア――ヘンリー・ジェイムズ(1)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

カウンタ

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

プロフィール

ペッシェクルード(Pescecrudo)

Author:ペッシェクルード(Pescecrudo)
初めてイタリアに行ったのは1994年、ヴェネツィアには即一目ぼれ。その結果、伊語会話勉強のためにヴェネツィアの語学学校に数年間の間、何ヶ月にも渡り通いました。
その後勝手を知ったヴェネツィアを先ず訪れて、イタリア各地にも足を伸ばしています。
東京に住んでいるので、憧れのヴェネツィアについて何かしら触れているとヴェネツィア気分で楽しいのです。

*図版・写真はクリックすると拡大されます。

最近の記事+コメント

カテゴリー

ブログ内検索

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

このブログをリンクに追加する

過去ログ

フリーエリア